2011年の詩から/ナンモナイデス
ても
黒い砂が
洗っていると
初老の婦人は
つぶやくように
嘆いていた
けれど
今日も
少しでも
身元がわかる
手がかりに
なればと
祈りながら
泣きながら
衣服や下着を洗っている
たらいの底には
砂がたまる
洗っても
洗っても
黒い砂が
2011年の孤独
遠ざかる
あの日に呼びかける
もう消えてしまった
あの日に
いつものように
詩を書いている
自分には
いつか訪れる
自分の時間の消失について
深く思索する
ほどの
危機が無い
ハイデガーのように
ナチの御用学者でも
後の世に存在する者達が
その学説を優先し
評価するならば
ごらんの如く
学説は生き延びている
世の常だといってしまえば
反忠臣蔵だ
と討ち入ってやりたい
気もするが
危機感も何も無い
紅白でも見ながら
年越しソバを
啜れる喜びを
鼻水と共に
分ち合おうと
思う
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