美しい女/黒田康之
先日、本屋へ行った。
ご贔屓の作家の旧作が文庫になったのを知ったからである。
お目当ての一冊の場所を確認すると
せっかくなので
呼ばれた順に本を手に取って立ち読みをした。
寝しなに読むのにちょうどいいもう数冊を探したかったのだ。
しばらく読み耽っていると
歳の頃二十代前半の
髪を少しだけ明るく染めた女性が僕の横で本を手にした。
時節柄、大きな白いマスクで顔は見えない。
百六十センチを超えるだろう彼女の視線は
僕の唇の丈である。
彼女は僕のすぐ前の書棚に興味があるらしい。
私は本をしまうとその場を離れた。
新潮文庫
講談社文庫
本棚を行き来すると少し遅れて
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