Xと書かれたジャムの小瓶/ただのみきや
 
た世界が破水する
掌の中で老いる顔
音楽が煙っていた
月は魚より冷たく
記憶は異物となって喉を塞いだ
コップ一杯の水から永遠が押し寄せる


涙腺の向こうの氷河で
小さな燠火が鳴った
水鳥が霧に燃えた朝
回帰するかのように抉る羽ばたきがあった
純粋であって自然ではない
裏漉(うらご)しされた魂は
自らを自在に形成する


言葉の中から匂い立つ
ひとつの 煙の姿態
開け放たれた窓ではなく
隠匿された傷の吐息
木の芽の尖りに火照る
蛹のような指の疼き――ああ全て
謂れを失くした幽霊 水面に踊るもの



                  《2021年2月20日》









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