五人五色/道草次郎
 

この世でただひとりの身の上だと
まさに天涯孤独のつもりなのです
月にいる愛人をほったらかしにしておいて
この時ばかりは宇宙にポツンと独りきり
愛の名もとおく銀河のはずれです



「陶芸家」

陶芸家さんはいつも陶芸のことを考えています
粘土のことを考えています
轆轤のことを考えています
陶芸家さんの奥さんは
美人ではないですがブスというほどでもありません
最近は泥パックにはまっているようです
奥さんに買い物を頼まれて近所のスーパーに行くときも
陶芸家さんの頭はやはり陶芸のことでいっぱいです
道々ぶつぶつ言いながら
とちゅう電柱に頭をぶつけたり
サンダルで犬のうんこも踏んじゃいます
陶芸家さんはいつも目の下にくまをつくっています
きっと疲れているんでしょう
夜寝るときも頭のなかでは轆轤がぐるぐる回っています
それから変な夢を見ます
ぐにゃりと曲がった粘土の塊が
地平線の彼方までずらっと列をなしている奇妙な夢です
そんな夢を見た次の日には
頼まれてもいなのに朝のゴミ出しを買って出て
奥さんにミルクティーを淹れてあげます
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