にごり水もみず/道草次郎
 
け拡がって行く。

波紋の円周はどんどん大きくなって行くので、大きくなりすぎて掻き消えてしまう前に様々なものと出逢わなければならない。たとえば難民を載せた輸送船、バンドウイルカのダークブルーの背鰭、偶然深海から迷い込んできた息も絶え絶えのシーラカンス、アマチュアサーファー、海亀、海上都市などに。

新たな波紋はまた別の出逢いを求めふたたび外縁への旅路につく。

波紋の生成と忘却とが交互に目まぐるしく入れ替わりを経験する。そこには無限数とも思える動物性プランクトンの脳に発火する微弱電流、 水素原子の酸素原子とが結合する間隙に彷徨う電子、ホオジロザメの残忍な鋸歯、水上ジェットスキーの壮大な飛沫、風を切る帆船の眩しさなどがある。

その水溜まりのことを「海」などと呼び、しばしば人は何事かを偲んでいる。

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