映画『赤ひげ』と父の思い出/道草次郎
 
手に取るように分かる。黒澤の手腕は並み大抵のものでない事は疑い得ない。また、役者の芝居も鬼気迫るものがあった。

冒頭で話した父であるが、映画やドキュメンタリー番組を録画するのが趣味みたいな人だった。だから書斎にはいつもビデオテープが溢れ返っていた。何を隠そう、父の遺品整理をしていた時気を紛らわす為観たのが、他でもないこの『赤ひげ』だった。初めは気晴らしのつもりだったが、これが実に面白くて、気が付くといつの間にかすっかり惹きつけられていた。

べつに六助の死と父の死を重ねた訳ではないが、その圧倒的なまでの衝撃は十七歳の自分を稲妻のように貫いたのは本当だ。そう記憶している限りは、それはぼくに
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