映画『赤ひげ』と父の思い出/道草次郎
 
が、話し終えた娘が訊くのだ。「おとっつあんの最期、どんなでしたか?安らかでしたか?」すると、赤ひげはこう答える。「六助の最期はそれはそれは安らかだった」娘はそれを聴いて腹の底から安心するように、「そうですよねえ、そうでなけりゃあ・・・、おとっつあんみたいな人が・・・そういう安らかな死に方でなけりゃあいけませんよね」としきりに納得し、ふたたび涙に暮れるのだ。?

その様子を傍らで見聞きしていた保本は、なんともいえないショックを受ける。保本のなかで名状し難い途方もない何かがわき出す。そして、それが人間の生と死をめぐるさまざまの思いと共にめまぐるしく泡立つのだ。それが、このシーンを観ている者には手に
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