美しいヘマのしでかし方/ただのみきや
虫のそれだった
わたしは愛着故に野良猫を重い木箱に閉じ込め
それを後悔して眠れなくなった
坂に向かって雪だるまを押し上げるように
良心はいとも容易くわたしを圧死させ
群がる鴉はみな猫へと姿を変えた
幾つもの時間が波紋を競い
幾つもの意識が互いを打ち消し合う
澄んだ海の底から響く鐘の音
記憶を語り出そうとした口を押し広げ
黒い機関車が飛び出して来た
石炭をたらふく喰らって窯は燃え
後から後から客車を引いている
わたしは泣いた
眼より上の頭は雲に溶けて
ゆっくり視線は捻じれて行った
鼓動を枕に血を遡る
わたしは一枚の黒いレコード
穿たれた空白を芯に世界を逆回転させ
外から内へ 割腹の針は
襞の奥に隠された秘密を探り出す
軋みや嗚咽を翻訳し
中心の果て 消息を絶つ
《2021年1月30日》
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