西の山から/黒田康之
西の山から
雪雲が湧き立って
雲の中は吹雪である
ひゅうと切断する音声は
麓の家々や人々や冬木立の何らかを切り開く
切り開いてはその間を通り過ぎていく
体も樹幹も枕も配線すらも切り裂かれて
おのおのの肉と血をゆるした
夕刻になって
日が雲を乗り越えて落ちる
西日は壮絶な赤になって
雪雲は吹雪いたままの達磨になる
厳しく丸く
峰の上に座す達磨にはまだ目が入っていない
雑踏も枝の鳴る声も床柱の軋みも
誰が目を入れるのだろうかと
同じ言葉を
違う音声で重ねあう
だが
その声が届く頃には
達磨はもう消えているのだ
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