夜、夜/田中修子
 
ためたチョコレートみたいにゆるやかよ

 ひび割れた窓も、燃えあがる車も

夜……夜、寝室・階段・居間・台所・扉の外へと滲みだす
外出してはいけないこの時間に、あなたは星月を湛える液体だ
鉄道の汽笛がきこえる
 
 このステーションもだいぶ、変わったわ
 ずうっと離れてポツンと座っている ひとりぼっちのひと
 車掌さん、
 (何、悪咳が流行るずっと前からですよ)

夜……夜、やがて小川の中に、
寝そべって花を持つ
うつつへの小舟に乗って、白い花の咲く岸へのうしろすがた
あなたの枕元にたつ
ときたま眼球にまつげが入っているでしょう

 もうひらかなくていいのよ 痛みのままに眠れ
 と濡れた手で抑えた


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※一連目着想 与謝野晶子
金色のちひさき鳥のかたちして銀杏散るなり岡の夕日に
あるゆうふべ燭とり童雨雲のかなたにかくれ皐月となりぬ
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