夜の信号/服部 剛
今日もふらふら
音のない家へ帰る男の背中は
言葉にならない寂しさを醸(かも)し出す
〈人生はひまつぶし〉と嘆く男の一日は
二十四時間ではなく
長さの計れぬ夜なのだ
この街の所々には
独りの人がいて
それぞれの胸に灯る信号は、点滅している
ある散歩者は人気(ひとけ)ない夜道をコツコツ歩き
隠れた人の心の信号を、そっと見つめる
――誰もこの手ですくえない
そう呟(つぶや)きながら、散歩者は
日々聞き流されてゆく、独りの声を拾おうと
夜の静寂(しじま)をコツコツと往く
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