帽子/墨晶
 
コートのポケットに、また、毅然と默ったまま壁の帽子掛けに。
帽子たちは夫々(それぞれ)の任務を與えられ、夫々の未來の主(あるじ)の赴く場所へ出現するのだろう。しかし、叶えられない邂逅も當然あると朕は考える。そうとなれば、朕は紛れもなく果報者だ。妻たち以上に帽子たちに圍まれているのだから。
先日、「納豆饂飩」なる東方の國の聖餐に與ることがあったが、その時、途惑う朕を遺憾なく完璧に補助してくれたのは、「ベレー」なる帽子であった。朕の四方八方に擴がる針金のような髮を宥めるように纏め上げ味わう異國の味は、云うまでもなく、朕は至寶と斷言する。
そんな譯で、「ベレー」と「饂飩」は不可分なのだよ、朕の王國に於いて。
 
 
 
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