サイレントチンドン/ただのみきや
 
は長く右に湾曲している
河口が近く水は雪と氷に覆われて見えない
濁っているのか澄んでいるのか
空もまた同じこと
時折カラスが流れて行く
つかみどころのないものを次々複写して
折り畳まれた世界
季節が巡ってもいつまでも逃れられず
この情景が真っ逆さまに落ちて来て
寒さで蝕むだろう
わたしが冬空へ飛び降りるその時まで





図書館の女

エメラルド色の四角いソファー
搾り出したクリームみたいに腰を掛け
白い表紙の本を開く

いま女と本は不可分
意識は本の世界に入り込み
言葉は心に次々と波紋を起こす

本を閉じて立ち去る時
言葉はまだ女の海を漂っている
だが本の中に女はもういない





盗人

月の浮かぶ二つの琥珀を
短い指の手がそっと覆う
釘を踏み抜いたまま少年は
太陽と対峙する
蜂蜜色の時が背中を流れ
樹々は風に燃えていた
雛鳥の囀りは頭の中でぼやけ
遠く微かな蝶になる



                《2021年1月16日》









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