詩の日めくり 二〇一五年一月一日─三十一日/田中宏輔
現われた。
ゴーストは車に乗って現われることもあった。
何人ものゴーストたちがオープンカーに乗って
楽器を演奏しながら冷蔵庫の中を走り去ることもあった。
そんなとき
車のヘッドライトで
冷蔵庫の二段目のぼくのいる棚の惨状を目にすることができたのだった。
せめて、くちゃくちゃできるガムでも入れておけばよかった。
ガムさえあれば
気持ちも落ち着くし
自分のくちゃくちゃする音だったら
ぜんぜん平気だもんね。
ピー!
追いつかれそうになって
冷蔵庫の隅に隠れた。
乳状突起の痛みでひらかれた
意味のない「ひらがな」のこころと
股間にぶら下がった古いタイプの黒電話の受話器を通して
ぼくの冷蔵庫のなかの詩の朗読会に参加しませんか?
ぼくの詩を愛してやまない詩の愛読者に向けて
手紙を書いて
ぼくは冷蔵庫のなかから投函した。
かび臭い。
焼き払わなければならない。
めったにカーテンをあけることがなかった。
窓も。
とりつかれていたのだ。
今夜は月が出ない。
ぼくには罪はない。
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