これから/由比良 倖
 
この薄い感覚を泳いでいくのには
もう飽きた。
条件反射的に僕を、
ありきたりな人間にあてはめていく虚しさ。
未来が見えちゃうって悲しい。
劇的な変化なんて計算に入れずに
ずっともやもやしてる。
セリフを忘れた道化師みたいに。
嬉しいふりをするのはもう慣れっこだ。

感動ごっこに疲れてしまうよ。
僕はもう動けなくなって
ただ泣きたくなる。

目覚めたいな。
目が覚めて飛んで行ければいい。
僕が生まれた場所に。
夜まで泣くんだ。
この体が溶けてしまうまで。

僕をほったらかしに世界は廻っている。
ブラウン管の中の小さな虹。
誰かが僕を観察している。
僕がいなくなったら僕の黒ずんだ亡骸は
世界の半分を埋め尽くして
誰かがそれを暗い顔で……

目覚めたいな。
生まれた街を焼きはらって飛びたいな。
冷たい宇宙のかなたから
焦げた地上を見下ろせたら
どんなに気持ちがいいだろう。

これからこの爛れた皮を
一枚ずつ脱いでいくのだ。
黒い血を吐くのは苦しいだろうな。
安らぎはどの先にあるんだろうな……
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