蹴捨坂/月夜乃海花
「もろともに消えなむ。」
女は頷きし後、自宅に火を放りき。かくて、女は最期ののしる。そは男の名ならず、げに思へると驚きし女の実の夫の名なりき。されど男の驚きしにはさながら燃えしよりに、最早気に留むるものなど無かりき。後に娘はかく語りきといふ。
「うつつとは小説のごとき作品よりもあやしきものに、その癖に結果ばかりなかなかにあぢきなきものかな。最期、父は我がことを『天魔』と罵り、その死にし女をひとへに神のごとく敬ひ、救はれきといへば。」
最期、娘はその父なりし亡骸を三十米先に蹴捨てける。これが後に蹴捨坂と呼ばるべくなりし由来と言はれたり。
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