詩の日めくり 二〇一四年十二月一日─三十一日/田中宏輔
 
}が、彼の背中からずり落ちた。すると、別の警吏が、群衆の先頭にいて、イエスの様子を見ていたぼくの目のまえに鞭を振り下ろして、「おまえが代わりに背負え!」と大声で言い放った。鞭の音とともに、地面のうえを一筋の砂塵が舞い上がった。恐怖心でいっぱいのぼくは、臆病なくせに、好奇心だけは人並みに持ち合わせていたのであろう、裸同然のぼろぼろの腰布一枚のイエスの代わりに、重たい磔木を背中に負って、刑場の河川敷の決められた場所まで歩いた。道中をイエスが磔木を引きずらなければならなかったのと同様に、そのあまりに重い磔木を、ぼくもまた河川敷の地面のうえで引きずらなければならなかった。群衆の見ているまえで、ぼくは磔木を
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