黒猫と少年(4)/嘉野千尋
 
 波音の果てに、赤煉瓦の街並みが、おじいさんの手が、
  そして花柄のブランケットが浮かんでは消えた。
 「どうしたの」
  涙を浮かべた黒猫の目を覗き込んで、少年が尋ねた。
 「どうして泣くの」
  擦り切れたブランケットの下で身を丸めて、
 「これは悲しいことかしら」
  と、黒猫は考えた。
  少年の細く白い手が、そっと頭を撫でるので、
  黒猫は何も言わずに目を閉じる。
  鉱石ラジオからは一晩中、
  繰り返し繰り返し波の音と『七月のアリア』が流れていた。



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