ちっぽけ/田中修子
 
やっとたどりついた水死体が
黄緑の棘のある 白薔薇のいばらのしたに
寝っ転がっていて 飛び出た澄んだ眼玉で
悪咳が流行ってから澄みゆく空を
わらうように泣くように眺めている
しずかに
夜明けの水平線のようなうす紫色のくちびるで
なにかを 祈りながら

 土の上

季節外れの花たちが咲いている
陽春・朱夏・秋冷・霜天 あらゆる季節を
輝く宝石として敷石にしました 桃、濃い緑、燃える赤、琥珀でできている
この道

亡き人の
立ち寄る小国だからね、すこしばかりおかしくって
同じ時期に咲くはずがなくとも
十二単で口元を覆い
枝垂桜の淡さ、あかしやの鮮烈な金、野薔薇の
[次のページ]
戻る   Point(9)