仄かなノスタルジーの監獄/ホロウ・シカエルボク
古いジャムの香り
おれたちの
もう二度と出せない声
無知ゆえの
喜びに
満ちた…
鎮魂歌は鳴りっぱなし
奏者には
もうどんな思いもない
ただ
指揮者がタクトを下すまで
手を止めてはならない
と
いうことだけ
型紙みたいなパンを齧りながら
午後の日差しを浴びていた
あたりは静かで
不自然なくらい静かで
まるで
世界と
切り離された気がした
木々が揺れるように
きみがそばに居れば
暖かい冬のように
もしきみがそばに居れば
こう思わないか
小鳥たちは
目的を持たないから
囀っていられるのだ
不意におれは
身体を失くした気がし
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