仄かなノスタルジーの監獄/ホロウ・シカエルボク
 
古いジャムの香り
おれたちの
もう二度と出せない声
無知ゆえの
喜びに
満ちた…

鎮魂歌は鳴りっぱなし
奏者には
もうどんな思いもない
ただ
指揮者がタクトを下すまで
手を止めてはならない

いうことだけ

型紙みたいなパンを齧りながら
午後の日差しを浴びていた
あたりは静かで
不自然なくらい静かで
まるで
世界と
切り離された気がした

木々が揺れるように
きみがそばに居れば
暖かい冬のように
もしきみがそばに居れば

こう思わないか
小鳥たちは
目的を持たないから
囀っていられるのだ

不意におれは
身体を失くした気がし
[次のページ]
戻る   Point(2)