ふちをなぞる目/道草次郎
 
。ある人がいるという事は定量化できない。その人がいるという事は、だから、大きいとか小さいとか深いとか浅いとかすることもできない。ならばその人を、ひっきょうどうすれば、本当に、よいのか。それは、それが分からないという限りに於いて、どうすればよいかが少なからず分かってくるかも知れない何か、かも知れない。


ふちをなぞる指をみている。みている目はどんどん言葉をすてていく。目は目だけになり、さいごに目があることに気付きその目には瞼がないことに気付く。目は乾き、くるしみはじめる。言葉をすててしまったので目は涙腺といえない。涙腺と発語すればすぐさま涙が分泌されるのに。目はみずからのくるしみのふちをなぞりはじめる、指でなくて、目の目で。すると、そこに光があった。それは「くるしみ」という言葉だった。

戻る   Point(0)