ずるずる/後期
 
を四本立てる。首を横に振ると、三本になり、後生だからと、身を乗り出してくる。クリームソーダも尽きただろうに、娘のずるずるは、なおいっそうのずるずるさを増し、申し分の無い娘だと思うが、首を横に振っていると、指が二本になり、振っていると、一本になった。「もうこれ以上、指は折れないよ」。そりゃそうだろう。だが、首を縦に振ったなら、その時こそ、此方の正体がばれてしまう。それはこいつらの思うつぼじゃないか。窓を見ると夕陽に照らし出された往来が、べったりと赤黒く塗り潰されている。一見、それは、恐ろしい程の静寂を見せているが、騙されてはいけないと、私は身を固くしている。息づかいだ。待機の姿勢の、息苦しい大勢の鼓動が、潜んでいる。踏み込まれてなるものか。ずるずる。ずるずる。この時とばかりに、娘は虚空を啜り上げてくる。ずるずる。ずるずる。ずるずる。ずるずる。私は首を横に振り続ける。


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