刈り込みと冬/道草次郎
なことが増えなくて済んだのにと、すこしうなだれる。近々、買い求めねばならないだろう。我ながら無精者の考えそうなことである。
長靴のドロをはらい、箕や一輪車や刈り込みバサミやらを回収してきて片付けると、犬走りに腰掛け遠くの山なみを見渡す。雪だ。赤茶けた杉だかの木々がつらなる山の中腹まで、雪の手が迫ってきている。
ふと地面に目をやるとナリのデカい蟻が1匹、何なのかはよく分からないが自分の3倍もある物体を抱えて這っていた。ほんの出来心で、サンダルに履き替えたばかりの右足をその上に持っていく。ピタリと蟻の脚が停まり、時もとまる。足で作った影を少しずつ少しずつ動かしていくと、やがて蟻に日が差す。蟻は動き出す。何事も無かったかのように。
地軸の傾きによりもたらされる冬が、命あるものすべてに及ぶかのように、見えない所で、サラサラと砂のように零れ落ちるのが聴こえる気がした。
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