野積海水浴場/山人
 
が見えてきた。一年に一度は妻と子供たちとで訪れた海水浴場だった。私は仕事に追われていたが、順風満帆とは真逆の生活を強いられていた。それでも子供たちを喜ばせたいと向かった海だったが、車中で妻との口論を繰り返し、それを子供たちは黙って聞いていたのだった。自分の力の無さを怒り、どうしようもない心情を家族にぶつけてしまっていた。あの頃に戻ることなどできないが、過去に許しを乞うように、ときおり海を眺めに来たくなる。
 海は荒れていた。海水のモンスターが岩を襲い、そしてまた海に戻るというその凄まじい圧力は、何かを思考することを忘れてしまう。ひたすらそれを見入ることで、自我を失わせ、気持ちが平坦になる。山は動
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