S氏の記録(短編小説)/月夜乃海花
 
れたんで。」

以上、S氏の某日のIクリニックにおける最終録音記録である。録音の許可はS氏に医師と心理士が許可を取っており、今回この公開については医師に許可を得た者である。彼女は録音通り、人の顔が見えないと言っていたが、よく話を聞くと矛盾があり、また友人Sは存在しないことが判明した。彼女の両親は彼女が5歳の頃に焼死している。また、その際に救出されたS氏の身体や顔には大きなケロイドが残っていた。S氏はこの最終記録の数日後に住んでいたアパートの火事で焼死した。原因は煙草の消し忘れであるということがわかった。クリニックの医師によるとS氏は様々な疾患を持ち合わせていると言える、いやそれしか言いたくないと黙り込んでしまった。最後に医師は気持ち悪かった、とだけ言った。

これがS氏の記録である。
ところでこの記録を書いている私は誰なのだろうか。もはや、そんなことはどうでも良いのだが。
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