光の言葉、水の言葉、石の言葉/道草次郎
 
積されていった。それは、いつしか不思議な魔法の養分となり菌やとなり合う別の植物たちを刺激し、驚かせた。透明な冬の妖精はその木の梢に耳をあてては微笑み、根に爪をかけたモグラは瞬く間に陶然とした。その木の名は?その木の名は、ハナミズキ。木言葉を「私の思いを受けて下さい」と云う。


「光の言葉、水の言葉、石の言葉」

それはとても長い歳月を必要とする種類の言葉だった。この宇宙にはじつに様々な種類の言葉があるので人間にはそれが分からないだけなのだ。光も言葉だった。水も言葉だった。石もそうだった。古いカーテン越しにとどく光が話す言葉は懐かしさを教え、アイガモが泳ぐ田圃の水面に降り注ぐ光の言葉は充足について語っていた。ミズスマシの起こす波紋に忠実な水は時について論じていたし、南洋を襲うハリケーンの一粒は無力とは何かをしめしていた。砕けた岩の割れ目は風を際だたせ、石庭の石は蜥蜴に嘆息していた。それはとても長い歳月を必要とする種類のメッセージであり、いつまでも辛抱強く待てる心のうつくしい表明でもあるのだった。


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