詩の日めくり 二〇一四年十月一日─三十一日/田中宏輔
 

ユリイカや現代詩手帖に送るように言ったのだが
楽しみのためにだけ詩を読んだり書いたりする青年だった。
ぼくは20代後半
彼は二十歳そこそこだったかな。
ブラジル音楽を聴きながら
長い時間しゃべっていた日が
思い出された
バロウズ
甘美なところはいっさいない
すさまじい作品だけれど
バロウズを通して
青年の思い出は
きわめて甘美である
なにもかもが輝いていたのだ
まぶしく輝いていたのだ
彼の無蓋の微笑みと
その二つの瞳と

カウンターにこぼれた
グラスの露さえも

二〇一四年十月十八日 「ウィリアム・バロウズの贋作
[次のページ]
戻る   Point(12)