誰にでも自分の中にはもう一人の自分がいる/こたきひろし
の手を思い切り払いのけた。
それは驚きの光景だった。
牛小屋の柱に鎖に繋がれていた雄の飼い犬ジョンが他所の雌犬に背後から迫りひたすら腰を振っているのだった。
牛小屋に牛はいなかった。急なお金に困って父親が売ってしまったからだ。牛小屋の中は物置きなっていた。
母親は言った。
子供が見るものじゃないの。
と言った。
後年
私はその日の母親の心情を痛いほど理解した。
発情した犬のまぐわいから、母親と父親にもそれと同じ行為が
有る事を我が子に想像されたくなかったんだろうと。
人もまたケモノ。雄と雌になったら人を忘れてケモノになる事を。
私もまた身をもって知ってしまったから
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