誰にでも自分の中にはもう一人の自分がいる/こたきひろし
 
日が山の向こうに落ちた頃
家の外で犬が尋常でない鳴き声をあげていた。
一頭だけじゃなさそうだった。二頭分の鳴き声はすこぶる興奮状態にある様子だった。
その内の一頭は家の飼い犬の鳴き声に間違いない。牛小屋の柱に首輪を鎖で繋いである筈だった。
犬の鳴き声に混じって騒ぐ子供らの声も聞こえた。
その内に騒ぎを聞きつけたのだろう。私の母親の声も混じりだした。家の裏の畑で農作業をしていた筈だった。

私は小学校低学年の子供だった。その時、家の中で宿題をしていたと思う。
私は内気でおとなしく、人前に出るのを極度に嫌う子供だった。
必然的に友だちは出来なかった。おまけに体躯は小柄で痩せていたせい
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