黒猫と少年(2)/嘉野千尋
 

  今日はなぜだか口を出してしまった。
  少年もまた、このところの陽気続きに飽いていたのかもしれない。
 「来たわ」
  ぴくりと耳を動かして、唐突に、黒猫がつぶやく。
  ほどなくして、びゅうびゅうと風の吹きつける音がした。
 「見てこよう」
 「あっ」
  少年が扉を開けた瞬間、小さな部屋いっぱいに突風が吹きつけた。
  小さく声を上げた黒猫の指先で、
  青い翅の蝶は一瞬のうちに一輪の薔薇へと姿を変える。
 「逃げてしまったわ」
  口を尖らせる黒猫に向かって、
  扉に手をかけたまま少年は、仕方なく肩をすくめて見せた。



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