黒猫と少年(2)/嘉野千尋
*蝶
黒猫の気だるい微笑みは、いともたやすく蝶を虜にする。
その静かに差し出された手の上に、青い翅の蝶がとまる様子を、
少年は頬杖をついたまま眺めていた。
「可哀想なことをするんじゃないよ」
少年はたまらず、そう口にする。
黒猫の気だるい笑みは、今や艶やかなそれへと変わっていた。
「可哀想なことってなんなのかしら。蝶はそれを、知っているのかしら」
春も半ばを過ぎて、続く陽気に退屈し始めると、
黒猫は思い出したように悪さをする。
少年も、そこのところはよく承知していて、
いつもは黒猫の好きなようにさせておくのだが、
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