化石化した堆積物/道草次郎
筈です。
学者と家庭
ライフワークを妻に淹れて貰い、朝の書斎のジャングルで啜るキリマンジャロ珈琲は美味い。従兄弟たちは絵手紙のエッフェル塔に暮らしているそうだ。いや、幽閉だったかな。弟は熱帯に嫁入りして、椰子の木に渡したハンモックでネオテニーと荘子を学んでいる。子供たちはダイニングキッチンのテーブルの下にずっと隠れて驟雨を凌いでいる。アリスいらっしゃい。そろそろママも帰ってくるから。羊皮紙の巻物が列ぶ書棚からメタフィジカルの烙印を取り出し、書きかけの原稿へ新しい薪としてくべてやる。まあ、それが仕事というわけだ。死んだ母の視神経で編んだセーターの袖が黒檀の机に触れる。ゾッとして世界観は一瞬唯物論に仮装をしてしまう。背中に凭れた罪深いもう一人の学徒はパイプの紫煙のたゆたう先で自慰に耽っている。思い出すのはロジカルハイのメタンフェタミン。一種の動物として具現し、ついぞ家庭に鎬を削っている、それが私だよ。
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