Memory Trains?「岡山駅」/SDGs
 
かが「10分停車らしいから」といったのだ。午前2時からの仕事の前に剃っていたひげもすっかり濃くなっていただろう。あと1時間半で下車予定の姫路駅だ。その前にさっぱりしたかったにちがいない。

長距離列車や夜行列車がいまよりも多く走っていた昭和30年代の主要駅のホームには、父がひげ剃りに使ったような洗面台がいくつもあった。長距離列車を牽引する蒸気機関車は石炭や水を補給する必要があり、いくつかの駅で長時間の停車を余儀なくされたのだろう。

新幹線の延伸とともに長距離列車や夜行列車は次第に姿を消し、洗面台もホームから消えた。長旅のひげをそり落とした男たちも、やがて三々五々静かに消えていった。

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