人混みのざわめき/こたきひろし
 

早朝
辺りはまだ暗い
耳たぶが凍りついてしまうくらい寒い

ホームで電車を待っていた
十九歳
半年振りに帰郷する

一人だった
彼は落ち着かない
気分が高揚している

昨年の春に辺鄙な田舎から東京に出て来た
故郷を捨てた訳じゃない
生家に居場所がなくなったからだ

親は高校迄は出してくれた
それ以上は面倒みない
みられない
後は自力で生きてゆけ
と言う
追い出しだった

住むところ
食べる物
着る物
は自分で働いて手に入れろ
と言う
追い出しだった

東京に夢も憧れも持ってなかった
東京は嫌いだった

四十年以上がたっていた
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