楽園へ/こむ
 
桜の花が それは青い空に映えて
とてもとても明るく
楽園の入り口に立てかけられた看板のようだ

私は 生きている
ここでしかない ここ
村に春が来て 菜の花も咲いている
何も言わなくていいほど
私は 確かに生きている

ここではない楽園へ行く と
書き残していなくなってしまった あの子は
ざわざわと風に梢を揺らす大きな木の下で
石の墓の中で 陶器の壺の中で
骨になって 黙りこくっている

住所の無い楽園は
ここではないところに あっただろうか
少しでも その楽園で 過ごせただろうか

うつくしい春の 悪い夢の中で
私は生きている
いつか ふと入り込む曲がり角の向こうに
住所のない楽園は あるだろうか
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