眉のあたりにすずしさの残る少女みたいに/須賀敦子とその「詩集」について/渡邉建志
 
な、本能的な、ただ、美しい言葉を繰り返し口にしたいという欲求が、須賀の筆を走らせる。須賀のヴィジョンを広げていく。2枚目に移ってから須賀は、まるで殺し文句みたいに、「いちもくさん」というひらがなに開いた言葉を、こどものように歌い、そしてまた、アマンテア、というお気に入りの地名を最後に置いて、句点で閉じる。リヴィアはいちもくさんに海へかけてゆく。とおく、句点みたいにちいさくなって。

須賀は、作家人生において、遠藤周作のようには、主と自分の関係を、書き物としては残さなかった。少し先に同時期にフランスに留学していた、しかも狭い夙川という同郷の遠藤周作の作品について、おそらく彼女が抱いていた批判や不
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