止めどなく零れ落ちる/こたきひろし
繁華街の雑踏で背後から呼び止められた
気がして
思わず立ち止まってふり返ると
自分ではなかった
と女は落胆した
知らない誰かが知らない誰かと
そこで偶然再会した様子だった
ただそれだけだった
気を取り直しまた歩きだした
急に雨が降りだして来た
朝の予報では今日は一日崩れない筈だった
それを信じて折りたたみ傘の用意はして来なかった
さっき別れて来た男が後から追いかけて来て
傘をさしかけてくれはしないかと
女は夢想した
ためしにふたたび立ち止まってふり返ったが
やっぱりそれはなかった
五年交際した男から別れて欲しいと電話で言われたのは一
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