トラムの話/春日線香
 
は少なかった。大首小屋は場所を移していたし酒飲みのガンはとうに死んでいた。バベル屋もなくなった。

今では何十年も経っている。子どもたちは親になり、彼らにも子どもが生まれた。どの住人の唇にも肉の塊が垂れ下がっていて、歌うと奇妙な響きの音楽になる。トゥララ、トゥルララ。不吉な風が吹くとき、彼らは歌わずにはいられないのだ。トラムの名前を知らなくてもその歌は口をついて出て、時折来る旅の者を不安がらせたりする。トゥララ、トゥルララ、ルルルルル。ざわざわと胸の奥をかき混ぜる。


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