紅葉狩り/山人
 
を促したのである。この寒さで二枚の肌着が汗でびっしょりになるほどの運動量を提供してくれたのだ。着替えた衣服は、心地よい幸福感を与えてくれた。
 各所のロープ倒伏や道標の倒伏と格納を進めながら下ると、霧が一部切れ、紅葉のパノラマが眼前に広がってきた。鮮烈な黄、血のような赤、紅葉しない緑、白っぽい黄、ワイン色、オレンジなど、私一人のために壮大な劇場が次々と現れ始めた。月並みな感嘆符を並べ立て、その高揚感はもはや言葉では言い尽くせないほどの美しさだった。あたり一面に繰り広げられる劇場は激情となり、なにもかも許せる心境になる。将来の不安やあらゆる危惧もすべて刈り払われるような世界がそこにあるのだ。
 二合目からは布引の滝へ下る周回コースを下った。最後の平らな登山道ではブナの倒木があった。何年も危険支障木という事で、道を迂回させて管理していた大木だったが、ついに力尽き地面に落ちたようだ。
 車に着いてみれば、結局私は山を楽しみ、景色に心を揺さぶられ、日常の煩雑さから逃れられたのである。
 
 



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