一宿一飯の恩義/板谷みきょう
 
伊達の喫茶店で唄った後に
店主に紹介されて
火山灰を釉薬にしている陶芸家の居る
洞爺湖に向かった

あの時
何か手土産を持って行ったと思うが
何だったのかは覚えてない
けれど
当時は千五百円位の地酒を土産に
世話になることが多かったから
きっと、一升瓶を
持って行ったに違いない

折角
洞爺湖に来たのだからと
投げ銭欲しさに
汽船の時刻表を見て
上下船する客の懐を当てにして
桟橋で放歌し始めた

行き交う人は大勢居たが
30分毎の運行時間に
追われているように
立ち止まる人は誰一人なく
いつしか
ボクは洞爺湖の中島に
届けとばかりに唄っていた
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