臨終/こたきひろし
 
俺の父親が危篤になって病院にみんな集まったから
懐かしい顔が見られたよ

集中治療室じゃなかったな
大部屋だったよ
ベッドの周りにいくつか医療機器があって
父ちゃん、口に酸素マスクあてられてた

そしたら兄貴がそばに寄って
父ちゃんの耳元で囁いたんだよ
 自分だけ楽になろうとするなよ。お袋一人になっちまうじゃないか、それでいいのかよ?
って言いやがったんだ
兄貴は静かに小さな声でいたわるように言ったのに
俺もそこに集まった皆もしっかりと聞いてしまったからな
もう何も言う事なくなっちまった

俺の母ちゃん長く認知症で
父ちゃんずっと老老介護してたんだけど
その時は母ちゃん体も駄目になったから施設で寝たきりになってたんだよ

申し訳ないけど俺には何も出来なくて
兄貴がぜんぶ負担してたんだ

俺には父親におくる言葉何も見つからなかった
都合よく涙流しただけだった

情けないよ
あの日の惨めさは

忘れたくても
忘れられない

言い換えれば
それも俺の単純なエゴイズムの表れなんだけどな

自分含めて
人って怖いよ
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