幸福に近い場所/道草次郎
電気配線を組むのが
三十人中一番遅くて居残りを食らった
ひっきりなしの汗が
ポタポタと顎をつたう
電話がポケットでずっと振動していたが
全然それどころではない
ぼくの三分の一の時間で
さっさと課題を済ませた余裕の彼は
ついこの間まで世界を旅したバックパッカー
電気理論の勉強している最中にも
要領よく語学の勉強をしたり
辻仁成の小説を読破したりしている
ぼくがこの半年で読んだのは
たぶん非小説の二十ページぐらいだ
この落差はなんだ
この格差はなんだ
ぼくは至って真面目に取り組んでいる
だが能力とはじつに不公平だ
しかもぼくにはもう後がない
銅線と
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