比喩のない希望/道草次郎
『山の人生』の出だしの
子殺しの炭焼きの話を聴きながら
カーブを曲がると
元セブンイレブンだった洗濯屋が
うんざりした顔を向ける
湿り気を帯びた大気を遮断して
空調は乾いた音を立てている
ポツリと雨があたり
続けざまに水滴が早口になると
フロントガラスの小虫が
一瞬躊躇し
水のメテオへ飛び去る
こころさみしくなり
誰かのねずみ色のコートの裾を
目でつかむ
真実のふくまれる水を
いつもタンブラーに入れてはいるけれど
飲んでも
いい味はしない
なにに満足すれば正しいのか
わからなくなり
わからなくなる自分を
どこまで保てばよいのかもわからなくなり
気付くといつも
チャンネルを変えていた
自罰が
それでも意味をなす場合を
こころに求めるが
回答は与えられず雨が強まる
内省のかわりに
卑屈となって
傘を探す手がモーセめく
もだえ絡まる蛇を
ぬるい微風に烙印して
アスファルトに誕生する
一々の足取りに
比喩の少ない希望を与えていた
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