後れ毛/
道草次郎
「後れ毛だけを切ってください」と
うまく言えない夢ばかりみる
現実の理髪師さんは
分かったのか分からないのかわからないけど
とりあえずは後れ毛を整えてくれる
仕上がりはいつも
何かがちがう
けれどもすこし朗らかに
「いいです」
と言って後ろ手に店のドアをしめるのだ
こうやって生きてきた人間は
それなりの人間となり
ときどき変な夢をみるようになり
それでも日々に追われていく
何かをやたらに言いたくないのは
自分ではない
人生の方がたぶんそうなのだ
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