ある町の情景/道草次郎
れている。
生まれいずる者と死に去る者の位相のずれが90°進むと虹が、90°遅れるとハリケーンが。ガイア理論はアンコールワットのほとりで佇む老爺。真相はヒジュラ暦とグレゴリオ暦を経巡り町の暗渠をいつも流れている。噫、二十世紀は遠くなりになりにけり。
喪われた土間の片隅に麒麟の親子。茅葺き屋根から突き出た首が都会の遊覧船を眺めている。アクアリウムに屯する精肉豚たちは、高層ビルで覆われた薄膜の意識の片鱗で時を待つ。
羊飼いを飼う羊たち。夜毎食卓を囲みナイフとフォークを器用に踊らせる。暗い寝室に差し込む団欒の光に怯えながら膝を抱えるかつての羊飼い。進歩しない孤独と神を前にしての絶対的公平。寝室に放られるパンと魚と、キリスト。
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