しびと(詩人)/道草次郎
一番甘えられる人をよんでくれないか
ここには裏山などないのに
萱野を食む狒がぽつりと云う
その人にはなんでも言えるらしく
糸を引くように罵れるそう
随分と煽て撫でられもするよう
言いがかりだって左様に
愛してくれともじつに臆面も無くだ
ところが茶の間での
その人は黙って暦となっている
目頭を泳がせて
というよりも胆嚢の鯨に泳がされ
あなた名前はなんとイイマスか
とたずねれば
その人はわらって霧になってゆく
その人が誰なのかを
地蔵の朱色の頭巾辺りに質問する
と路肩にシュウメイギクの回答が
もたらされ
はたと狐の嫁入り
とくべつ気にとめたふりもせず
さはあれど
繙くしかないのが
納戸のむこうの雑木林
ふたたび
明け初めにむかい
詩にはじめようとイキむ自分の鼾
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