落下する名前/霜天
僕らがあの不確かな情景をそれと呼んでいた頃には
まだ君は躓かない足と目線で
確認済みの経路を泳いでいた
風をよけるような手付きで
あの足跡から
十五番目の通路の奥で
黄色い花が咲いているのを
二十二番目の通路で流されながら
手を伸ばすように見つめている
僕らはその、名前を知らない
重なり合う足元さえも
もう少しの夕暮れ
この街を抜け出すと
それは確かにそこにあった
詰め込むようにして集まった小屋に
僕らが置き去りにしてきたもの
その名前が落ちていく
落ちてしまえば、どこへも帰らないことを
君は泳ぐことをやめて、静かに着地する
僕らはただ、あの足跡から
落ちていくその名前を見ている
間違わないように繋ぎ合った手の先で
誰かが泣いていたのかもしれない
次第に君が薄れていく
それはどこにも無かったのかもしれない
いつか僕らが薄れていく時も
あの花はその黄色い繰り返しを
ただ続けているのかもしれない
落ちていく、その手前で
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