sonnet(船出)/大町綾音
 
さよならの船出を、彼女は待っていた。
美しく水がゆれるなら、心はにごって、
晴れることなく気もちは空とつながってゆく……
ただ、さよならの船出だけを。
 
そうね。ため息がひとつこぼれても、
彼女はずっと海ばかり見つめていた。
波がゆれ、波がゆれ、近づいてくる波頭と……
ため息がひとつだけ、こぼれても。
 
そうね。波止場には人もなく、景色もなく、
さよならの船出だけを、ただ待っていたの。
ふと目を落としても、またふと瞳をあげても。
 
さようならの船出を、彼女は待っていたわ。
「もう、手紙を出さないで」って……、
宙を手で掻いたとき、宙を手で掻いたときに……。
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