9年前の嫉妬/道草次郎
「僕はいま、あまり親しくない人たちの中にあって、黙ってその人たちのおしゃべりに耳を澄ましている。僕は耳にする。その人たちのうちの一人、Aさん(中年のおばさん)の話し声を「え〜と、上の子供に子供が一人、女の子。女の子も女の子で可愛いよね」僕は無関心を装う。別のもう一人、Bさんの話し声、「○○さん、今日遅番?いや、俺は明後日。マジ眠いよね」いぜん無関心を装う自分。ところで、このとき僕の中で嫉妬心がグツグツと煮え立っていたと言ったら、それは馬鹿な話だろうか。そう、たぶんそれは馬鹿な話なのだろう。しかし、嫉妬とは、いつも不意打ちのもの。僕の心の中でAさんは、人生の成功者だ。なぜなら彼女は結婚
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