残照の中のつまらない対話/道草次郎
 
まさぐりだした。烏の声を期待している自分が何処かにいたが、けっきょくは啼かず仕舞いで周囲は完全なる闇に閉ざされてしまう。
 月の不在。鞣された夜空。行方不明の星雲。
 
 一つのものが二つながらに秋の野に立っていた。そして、それらは互いの事を見透かしていたにもかかわらず、稚児の対話篇をものしたのだ。
 ここは古代ギリシアはパルテノンだろうか。否、違う。北信濃は○○市のさびしい吹き溜まり。乳歯のような魂を荒んだ器に積載し、獣のような臭さを撒き散らしながら日々を汚している男が棲みつく場末の曲がり角だ。
 夜陰に乗じ、歯噛み。

 勝手口を出た音に驚いて羽搏いた鳶は、今ごろ、銀河のどのあたりの惑星を飛んでいることだろう。
 浄土の空と秋風をさっき感じたしょぼくれた男一匹。地球の魂(アニマ)に一瞬溶け込めたような感覚は、あれは錯覚だったのだろうか。
 ふたたび詩篇が紡がれていく事は避けられないようだ、この秋の常闇に。



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